Horizon Walkerの新企画!ここでは実際にCirrusを使用しているアングラーの経歴や釣り流儀、オススメのタックル等様々な角度からカヤックフィッシングの世界を紹介していきます。これからカヤックの世界に足を踏み入れようとしている人、すでにカヤックフィッシングをたしなんでいる人が新たな視点を見出すことができるかも?!
一人目は開発にも携わったCirrusの現アンバサダー、駿河湾エリアを中心に活動をしているヨコCに語ってもらいます。
ヨコCさんはYoutubeでも動画を発信しています。ぜひご覧ください!
⇒https://www.youtube.com/channel/UCdlcmz4tCRCSsKZaV9AySKA
大海原への憧れ
釣りをしている人なら誰しも一度は、人がいないところでのびのびと、しかも確実に魚が釣れる釣りをしたい、そんな贅沢な思いを抱いたことはないだろうか。静岡県に移住して3年目の私はまさにその思いの最中にいた。
駿河湾はとても魅力的な海だ。石廊崎と御前崎を結ぶ約56kmの湾口、約60kmの奥行き、最も深い地点水深2500m、大学で駿河湾のお隣、相模湾の沖合で海洋環境の研究生をしていた私にとって、駿河湾は未知で、壮大で、畏怖と憧れの象徴のような存在だった。静岡県で就職が決まった私は胸の内側でガッツポーズ。「どんな魚が住んでいるんだろう?」という知的好奇心を原動力に釣り具を買い揃え、若さに物を言わせて寝る間も惜しんで浜松から熱海までのあらゆるポイントを探った。そして一つの結論にたどり着く…「どこもかしこも人!人!人!」


静岡県の釣り人たちはガチだった。入る隙間なんてなかった。夏の朝間詰めは大体4時頃、余裕をもって2時頃着いて、星を見ながらコーヒーを飲んで、ちょっとジギングして日の出に備えようかな、というワクワクは一瞬で打ち砕かれた。海岸線の端から端まで釣り人、どこまでも釣り人、意味が分からなかった。駿河湾の洗礼に打ちのめされた私は、静かにショアジギセットを押し入れの奥深くにしまった。
「遊漁船はどうだろう?!」「海上釣り堀なら?!」「淡水の管理釣り場は?!」諦めることなく色々な可能性を探るものの、金銭や時間の理由以上に、どこか自分の心が満たされないことに悩んでいた私はYoutubeでとある動画に出会った。「カヤックフィッシングの一日」心を奪われた。自分だけの時間、自分だけの空間、自分がやりたい釣り、波の音、ドラグ音、大きな魚との出会い、そこから私のカヤックフィッシングライフが始まった。

このブログでは、「カヤックフィッシングには興味があるけどまだよく分かってない…」「カヤックフィッシングを始めてみたいけど少し不安であと一歩勇気が出ない…」という人が「いいな、カヤックフィッシングやってみようかな」という思いに少しでも近づけるように、カヤックフィッシングの魅力や必要な知識、成功談や失敗談といったアクティビティとしての側面と、資金やカヤックフィッシングを通して得られた人間関係や人生経験といったコミュニティとしての側面から紹介していきたい。なお、筆者は2022年8月Horizon Walkerさんから販売されている国産足漕ぎカヤック「Cirrus/シーラス」のアンバサダーを務めさせていただいているが、海や船舶、釣りに関して全くプロフェッショナルということはなく、ただ色々なことを試すのが好きな一釣り人なので、記事の内容も素人なりの視点に基づく考えが多く、釣りやカヤックに関して「正解」があるとは思っていない(その場における適、不適はあると考えている)。なので、面白おかしく、安心して記事を読んでほしい。それと同時に、中には全く外れた見解もあるかもしれないが、そこに関してはご容赦願いたい。加えて、今私はCirrusをメイン艇として使っているし、アンバサダーとしてCirrusの魅力を伝えようという使命感にも燃えているがこちらのブログではあまりその辺に縛られ過ぎずに、「カヤックアングラーとしての自分」の姿を手広く語っていきたいと思う。
初めて出会った相棒「忍」
カヤックフィッシングを始めるにあたって最初に直面した問題はやはりお金だった。今年29才、当時25才だった私にとってどのカヤックを購入するかは、その日の晩御飯を何にするか以上に重要だった。カヤックは高いものになると軽自動車が買えそうな値段になる。「命に関わる趣味だからある程度の金額は覚悟しなきゃいけない…でも輸入品とかよくわからないしやっぱりあまり高いお金は掛けられない…」私はカヤック購入の決定打を見出せずにいた。清水にはViking Kayakの工場がある。カヤックの予習をするため頻繁に工場に通っていたある日、そこにはあの動画に出てきたものと全く同じ、黄色と黄緑のミックスカラーの忍があった。しかもアウトレット品で現物渡しが可能で(購入しようとしていた当時の納期は1~2か月程度)、デラックスシートも付属していた。「これだ!!」人生における偶発的なきっかけに運命を感じがちな私はすかさず店員さんに「今から5分で10万握りしめて戻ってくるのでこれ、とり置いてください!」と伝え最寄りのコンビニへ最速(法定速度)で転がり込んだ。
手漕ぎカヤック「忍」はカヤック初心者にとってこれ以上ない程優しいカヤックだ。重量23kg、全長3.5m、最大積載量110kg、高い安定性を誇り、10万出せばお釣りがくる(2023年9月時点で税込み114,900円)。ポリエチレン製なので、多少手荒に扱っても大丈夫。たくさんの使用者が動画を投稿しており、その評価も高い。まさにこれからカヤックを始めようとしている人の気持ちを後押ししてくれるスペックで、実際に私がCirrusに乗り換えるまでの3年間、いつも安心安全で、満足のいく釣行を提供し続けてくれた。
いざ、初めての沖へ!
最初の釣行は、正直言って大失敗だった。先述した内容とさっそく矛盾しているが、何度思い返しても1回目の釣行は酷かった。まずジギング用の釣り具も、魚探も持っていない。最低限の安全装備と「ショアジギング」用の釣り具だけを携えて海に出たものの、何からやっていいのかが分からない。そして何より、風が吹いていた。
海は当然風の影響を強く受ける。駿河湾も例外ではない。冬は北風、夏は南風が顕著で、風向き一つで海況はコロっと変わる。その日は南の風4m/s、経験値や海域によって基準は様々だが、初心者で、仲間もいないなら海に出るのは賢明ではない風速だっただろう。もしカヤックフィッシングにある程度精通している人が、その時の私を見たら指を指して説教をしたくなるような、あられもない姿だったと思う。

カヤックフィッシングに限らず、「情報」はとても大切だ。当時の私には「情報」が絶望的に欠けていた。ショアジギングと同じ感覚で、好奇心ばかりが先走ってしまった。岸からの釣りが安全とは言わないが、体力や技術が要求されるカヤックフィッシングの危険度はかなり高い。一歩間違えれば簡単に命を落としてしまうスポーツであり、一人一人が高い人間性を発揮しなければ、悲しむ人がいるだけでなく業界全体に多大な損失や悪影響を及ぼしてしまうという自覚が当時の私には足りていなかった。
以上の反省を踏まえて、ここからはカヤックフィッシングを始める際に必要な知識を紹介していく。
「これを読んどけば大丈夫!」という自負の気持ちと責任感をもって記述したいため、かなりくどく、細かい説明になってしまう可能性があるが、必要・有益だと思う部分をつまみ食いしながら読んでいただきたい。
カヤックフィッシングを始めよう!
始める前に必要な装備・初期費用
カヤック本体
これが無いとカヤックフィッシングは始まらない。とはいえ世の中にはたくさんの種類のカヤックがあり、その個性は千差万別。ここではカヤックを用途や目的でジャンル分けをし、それぞれの特性を紹介していく。
自分が求めるカヤックスタイルと照らし合わせ、より良い選択ができる手助けになれば幸いである。
手漕ぎカヤック
多くの人が想像するであろう、パドルを使用して推進力を得るカヤック。重量は軽いものが多く(15kg~40kg)、比較的持ち運びが容易である。価格帯も安価なもので10万円~で購入することができ、お財布にも優しい。取り回しの良さからどのようなフィールドでも使用可能で、オールラウンドな性能をもつバランスタイプ。一方で、一定のパドリングスキルが要求されるため、練習が必要。また、「釣り」と「パドリング」はどちらも上半身に負担が集中するため、疲労度は高め。移動速度と疲労度がパドリングスキルによって左右されるカヤック。
足漕ぎカヤック
足でドライブを漕ぐことで推進力を得るカヤック。プロペラタイプとフィンタイプがある。重量は重いものが多い(30~50kg)。専用のシートやドライブが必要であり、仕組みが複雑化するため価格帯は高め(15万~)だが、釣りに特化しているため初心者でも安定した推進力を得られ、移動速度も速い。方向転換もラダーの操作のみなので楽。オールラウンドな手漕ぎカヤックに対し、ドライブがカヤック下部から突出する仕組みになっているため、水深が浅いと岩礁や消波ブロックに接触し破損する可能性があり、フィールドは手漕ぎに比べると限定的。

私は手漕ぎカヤックと足漕ぎカヤックを1艇ずつ持っているが、端的にこれからどちらを使い続けたいですかと問われれば、断然足漕ぎカヤックをオススメする。理由は簡単で「釣り人に優しいから」である。この釣り人に優しいという要素によって私のカヤックフィッシングは本当に楽なものになった。優しさの正体をいくつかの詳細に分けて共有したい。
1.体力が温存される
釣り人にとって帰りの車内は脅威である。前日に準備をし、朝早く(早い人は前日の夜に出発し前泊する)に出発し、短い睡眠時間で数時間釣りをした後、大抵の場合帰りの車内で強い眠気に襲われる。先述の通り、手漕ぎカヤックは「釣り」と「移動」の負担が上半身に集中している。パドリングで移動し、反応があったらパドルを釣り道具に持ち替え、ジギングならしゃくり続け、魚が掛かればファイトを楽しみ、反応が消えれば釣り道具をパドルに持ち替え再び移動する。これだけ見てもカヤックフィッシングはとにかく上半身が疲れるスポーツであることが分かるだろう。しかし、足漕ぎカヤックは移動の負担の大部分が足に移る。それに加え足は腕の5倍力が出るというのだから、これほど頼もしいことはない。しかも足漕ぎカヤックは「釣り」と「移動」が両立する。釣り道具を手に持ったまま移動もできるし、移動しながら糸を結び直すこともできる(視野が狭くなるため安全性の理由から推奨はしない)。反応が見つかればブレーキをかけると同時に仕掛けを落とすこともできる。手漕ぎカヤックで体感する疲れ度合いを1としたとき、足漕ぎカヤックならば0.6程度まで軽減されているようにすら感じる。体力面において、足漕ぎカヤックは優しいのである。
2.移動が速い
カヤックで沖に出るならば、あっちに行きたい、こっちにも行きたい、そう思うことがあるだろう。岸から釣りをしていた時のような「線」上の釣りではなくカヤックは「面」上の釣りである。その自由度は計り知れない。しかしいざ遠くまで行こうとすると、これが意外と難しい。「忍」だと平均速度は4~5km/h、仮に4km/hで進むと1km進むのに15分間一定速度で漕ぎ続ける必要がある。あちこち移動していると釣りのための体力がみるみるうちになくなっていく。足漕ぎカヤックはそんな釣り人の願いを叶えてくれる。Cirrusは平均6km/h、潮の調子がいいと8km/h出る時もある。これがもうめちゃくちゃ速い。6km/hで進
むとしても1km進むのに10分、漕ぎ続けることを考えるとこの300秒の差はかなり大きい。足漕ぎカヤックになってから私の釣行可能範囲は段違いに広くなった。それに伴い挑戦することができる釣りの種類も比例して多くなった。
3.潮流や風に負けない力強さ
カヤックフィッシングをしていると天気が急変することがある。私はいつも風が強くなる2時間前を釣行終了の基準としているが、それでも時折「こんなに早く変わったか!」と思うほど急に風が吹くことがある。カヤックフィッシングにおいて風向きと風の強さは致命的に重要となる。釣りにおける風向きには岸に向かって吹くオンショアの風、沖に向かって吹くオフショアの風の2つがあるが、後者が釣り人にとっての厄介者になることが多い。
カヤックというのは水の上に浮かんだ葉と同じで、水の流れ(潮流)と風によって自分の力とは関係なしに動こうとする力がはたらく。もし潮流が沖を向き、さらに強いオフショアの風が吹いたとして、それらがカヤックの推進力を超えた時、岸に戻ろうとしてもカヤックそのものは沖に向かってどんどん流されていく。こうなっては一巻の終わりである。私は一度手漕ぎカヤックで上記のような潮流、突風に会い、全力で漕いでも進行方向に0.4km/hという恐怖体験を味わったことがある。別の仲間もいて、近くにはプレジャーボートもいたが、風の音が大きすぎて大声を出しても全く聞こえない。あちらも何かを叫んでいるが何も聞こえない。本当に生きた心地がしない10分間だった(その後風はやみ事なきを得た)。
足漕ぎカヤックは、というよりCirrusは速さに加えて非常に高い推進力がある。以前似たような突風が吹いた時通常通りに漕いでいたが安定して4~5km/hで進んだ。あまりの推進力の高さに驚きを隠せなかった。(だからといって風が強い日でも遠慮せずに出船して大丈夫、という話ではない。あくまで緊急事態への対応力が非常に高いということを伝えたい
。)
他にも足漕ぎカヤックのメリットを挙げればキリがないが、残りは後述の「足漕ぎカヤックが可能にした様々な釣法」で併せて語りたい。
足漕ぎカヤックの弱点・デメリット
足漕ぎカヤックは一言で言えばかなり優秀であるが、もちろんその裏側にはデメリットも存在する。大きな買い物であるため、きちんと弱点も理解したうえで最終判断をしてほしい。
1.荷物が多い
手漕ぎカヤックは荷物がコンパクトにまとまる。そもそも積載量が足漕ぎカヤックに比べ少ないため荷物を減らそうというバイアスがかかりやすいのも相まって少量の荷物で済むことが多い。それに対し足漕ぎカヤックはやたらと荷物が増えてしまいがちである。まず必須装備として本体+パドル+シート+ドライブ、これだけでもかなり車内はもっさりする。Cirrusはこれにクーラーボックスやタックルボックスがたくさん乗ってしまうため、カヤックの上はてんこ盛りである。カヤックを引退する人の理由に「準備にやたら時間がかかるのに海が荒れてて出れないことに嫌気がさす」というものがあると聞いたことがある。足漕ぎカヤックは比較的重いため車載するのにもそれなりの労力が要する。ウキウキ気分で海に行ったのに白波が立っていたら、気持ちが落ち込んでしまうのも無理はないだろう。
2.メンテナンスが大変
沖でラダーのワイヤーやドライブに不具合が生じたらかなり危険だ。2馬力のエンジンが掛からなくなったという話を聞いて身の毛がよだつことがあるが、足漕ぎカヤックにも起きてしまうと大変なことになる可能性が複数孕んでいる。特にフィンタイプのドライブユニットが破損した場合など、簡単に直せないこともある。足漕ぎカヤックは手漕ぎカヤックよりも学ばなくてはいけないことがたくさんあるだろう。他にも手漕ぎカヤックより高額な場合があるという金銭的なデメリットや、便利がゆえに無理をしがちという意識的な弱点など、結局のところ手漕ぎも足漕ぎも一長一短ではあるのかもしれない。大事なのは何を重視して、どんなことなら我慢・妥協できるのかである。
カヤック本体の説明にかなり力を注いでしまったが、他にも以下のような必須装備がある。
ライフジャケット
万が一転覆してしまった場合にライフジャケットが必要である。また、膨張式のライフジャケットは再乗艇の際障害となってしまう可能性が高いため、固定浮力タイプが推奨されている
パドル
たとえ足漕ぎカヤックであっても、離着岸時はドライブが水から出ているため、パドル操作が必要になる。また、もし沖合でドライブが使用不可能になってしまった場合にも岸に戻るためにパドルが必須となる。
フラッグ
自分の存在を示すためのフラッグ。一般的にカヤック後方に取り付け、旗は遠方からでも見つけやすい赤や橙、黄等が使用されることが多い。
釣り道具
これが無いと「カヤックフィッシング」のアイデンティティの大半が失われてしまう。
詳しくは後述の「足漕ぎカヤックが可能にした様々な釣法」で説明する。
カヤックの楽しさ倍増!あると便利なアイテムたち
カヤックフィッシングの醍醐味はそれぞれの艇に施す艤装や準備物の多様性にある。
ここでは私がこれまでに出会ってきた(もしくは現在私も使っている)アイテムを紹介する。
魚群探知機
海の中のようすが手に取るようにわかる。釣り人にとってこれほどの快感は無いだろう。魚群探知機を使用すると、魚影だけでなく、水深、水温、海底地形、底質、漁礁等釣りのワクワクを高めてくれる情報が見えてくる。これを使って自分だけのポイントを開拓していくのも楽しみの一つだ。安価なもので3万程度から揃えられるが、例えば中深海で釣りをする場合魚探によっては周波数に限界があり、水深がとれない場合があるため、自分が求める釣りスタイルに合った魚探を選ぶことが大切だ。
ランディングネット、ギャフ
カヤックの上で魚が暴れまわると思わぬ事態に発展することがある。私はかつて、魚の尾鰭アタックによってプライヤーやルアー等の小物を海に落とされてしまった経験から、今ではできる限りランディングネットに魚を入れるよう心掛けている。ランディングネットに収まらない大物はギャフで仕留めている。
リーシュコード
転覆してしまうと大切な道具を大量に失ってしまう。波打ち際でない限りそれらの回収はほぼ100%不可能と考えてよい。そこで、リーシュコードでロッドやパドルをつなぐことで万が一転覆しても落下を防ぐことができる。一方で、あまりにつなぎ過ぎてしまうと、取り回しがしづらくなったり、逆に体に絡まってしまい溺れてしまったりする等の危険性もある。
以上が基本的なカヤックフィッシングのための装備となる。
ここから個性豊かな「艤装」が施されていく場合があるが、私は艇をありのままの姿で使うのが好きなのであまり艤装に力を入れていない。それも一つの個性としている。
次回からは、私がこれまでに試してきた釣りの種類や成果、オススメの仕掛けやタックルを紹介していきたいと思う。つたない文章ではあったと思うが、最後まで読んでくれたことに感謝をしたい。
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